『金の卵』 ~ 十五の春
もはやもう、「金の卵」は死語であるらしい。忘れることも生きるコツかもしれない。それにしても学校では古代史を学ばせるのだが、近代史は学ばせない。試験にも出ないからひたすら忘却の彼方へ。3・11・はまだ記憶に新しいけれど、すでに風化しつつある。
少しは心のどこかに、記憶しておいたほうが良いとは思うけれど、今の若い世代は受験勉強でそれどころではないらしい。大学に入ればバイトが忙しくて考える暇もないとそうだ。卒業しても就職できなければ奨学金の負債が追いかけてくるという現実。心の余裕もない。
かつて、集団就職という国策があった。貧しい田舎の子供たちを斡旋する就活である。自分より成績の良い子が便乗して都会に出て行くときに、就職列車という夜行臨時列車に乗るのを近くの駅で見送ったことがある。そのすすけた古めかしい列車が到着したときには、すでに北のほうから赤いリンゴほっぺの女の子たちが乗り込んでいた。安定所のオジサンが旗を掲げて同乗(人買いのごとく)。見送りに来た親たちは走りながら列車を追いかける。テールランプが闇に消えた。
そして自分は高校に行けることの幸せをかみしめた。
早朝上野駅に着くと金の卵の受け入れ先が旗を振って、向かいに来ていた。まるで人買い市場のような賑わいだったと言いう。彼らはそれぞれの職場で修業に励み、盆暮れに帰郷することが唯一の楽しみだった。
時には仲間たちと上野の西郷さんで待ち合わせて、「高校に行った人達に負けないように頑張っぺ」と励ましあったそうである。
映画「3丁目の夕日」そのものである。
東北は圧倒的に貧しい農村で子だくさんが多かったから、中学を卒業すれば実家から出ていくのは当然のこと。中卒の友人と連絡を取り合っているが、当時を特に不幸だとは思っていなかったという。
学歴社会の中で、彼らこそ日本を支えてきたことを覚えておきたい。
十五の春「金の卵」の上野駅
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