ピエール・ロテイの『お菊さん』
永井荷風の日記には時々、ピエール・ロテイの名前が登場する。ロテイといえば、イスタンブルのエユップにある「ピエール・ロテイのチャイハネ」が有名で、そのカフェは金閣湾が見下ろせる高台にある。そこで、フランス海軍の将校でもあるロテイは現地の人妻と逢瀬を重ね、「アジアデ」という小説を書いたと言われる。
二度来日し、当時(明治18年)の長崎での退屈なひと夏を、一人の憐れむべき日本ムスメと過ごした。その作品が、「お菊さん」マダム・クリザンテムである。 自らも異邦人の経験を持つ荷風は異邦人の日本観察に興味があったに違いない。
日本蔑視ともとれる表現が気になるが、それも事実であったであろう。ラブストーリーではなく、日本娘を奇異な目線で観察している感が否めない。
訳者の野上豊一郎氏は英文学者・農学者・作家、野上弥栄子氏の夫でありイタリア文学者・野上素一郎氏の父、哲学者・長谷川三千子氏の祖父・・・と代々の学者ファミリー。 初版は大正4年、日本語がとても奥ゆかしく、フランス風である。
カフェは、博物館を兼ね、恋人たちの場所として、観光地として現存している。
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