半世紀前の『辞書』
本棚の片隅に転がっているヨレヨレの手のひらサイズの辞書。 研究社の「新英和小辞典」入手したのは半世紀前の春、皮革製で表紙はぽろぽろ。
人生の終焉に先駆けて、整理をしなければと思いつつ、想い出の品々に触れるとなかなか捨てる踏ん切りがつかなくなる。
この辞書をリュックに入れて最初に外国の土を踏んだ。 以来、いつも旅のお供だった。もはや文字が小さすぎて、虫眼鏡が必要。
この辞書の贈り主は当時サンフランシスコから旅行に来ていたストーン夫妻。「八芳園」の立礼茶席で知り合った。つたない英語が通じて感激した瞬間である。
「時々美しい日本とあなたを想い出していますよ」 などと書かれるとお世辞でも嬉しくなった。写真を撮って送ってあげて、以来夫人とはしばらく文通が続いた。サンフランシスコでの再会を夢見て・・・(残念ながら、いまだにアメリカの土は踏んでいない)。
卒業祝いにと、手紙の中に5ドルの紙幣が送られてきた。当時は1ドルが380円! 何か記念になるものを・・・と、この辞書を購入したのだった。
とっても優しそうな夫妻だった。 今考えると、仕事を終えた定年旅行だったのだろう、今の自分と同じように。 もはや故人となっている夫妻との忘れがたいヒトコマ=青春の想い出である。
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