ヘミングウエイ ~ 私的な部分へ
マッチョでタフネスのハードボイルド・リアリズムの作家。世界の文豪、ヘミングウェイ。外見的にには白鬚のサファリルックで、ワイルドな冒険家の大男、戦場を生き延び、酒と女と猫を愛し、友人にも恵まれて・・・・なのになぜ62歳で自ら命を絶ったのか?
(1899 - 1961)
20代のころ、辞書を片手に原書で読んだ「武器よさらば」は読後はソフトカバーがヨレヨレイになっていた。 帝王切開がCaesarean operationであることを妙に納得した記憶がある。その後、30代には勤務先の仲間との読書会で「老人と海」を読んで以来作品に触れることもなく過ごしてしまった。ここに来て、彼の生き方に近づいてみたいという好奇心から2冊の本に触れてみた。
『ヘミングウェイの流儀』
写真は1921年、髭のない21歳のヘミングウェイ: 最初の妻、ハードリーと出会ったころ。仕立てたばかりの背広に靴も正統派の紐付きとあり、ヘミングウェイの「モノ」へのこだわりを覗くことができる。 帽子、ジャケット、靴、鞄、ベルト、ナイフ等々実用的で長く愛用できるものを愛し、カジュアルファッションのリーダーとも言えそうである。
イタリアでの被弾、ロンドンでの交通事故、アフリカでの赤痢、二度の飛行機事故など不死身とも思える生命力と運を兼ね備え、しぶとく生き抜いた彼の幕切れは愛用の散弾銃で自分に向かって引き金を引くことだった。=1961年7月2日: 銃によるハラキリ
視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚を駆使し、自らが体験し、並外れた観察力と記憶力でリアリズムを追及した文体を支えていた健康な肉体が崩れた。
自殺の要因としては飛行機事故の後遺症、暴飲暴食による持病、仕事の行き詰まり、重度の鬱病、そのための電気ショック治療の悪影響。盟友ゲーリー・クーパー病死のショック。そして遺伝性もあげられる。父、弟、妹、孫・・・近親者には驚くほど重い鬱病による自殺者が多い。 ノーベル賞受賞後は長期のスランプに陥ったとも、末期がんだったという話もある。 とにかく理由は本人でないとわからない。
『パパとキャパ』
パパはヘミングウェイの愛称、キャパは戦場写真家のロバート・キャパ(19139-1954)。 二人は1937年、内戦中のスペインで出会った。 自然体のヘミングウェイの何枚もの被写体を見れば、二人はかなり親しい間柄だったことがわかる。 共通の友人たちには、スタインベック、サリンジャー、フィッツジェラルド、クーパー、ピカソ、マチス・・・・・と一流どころが名を連ねる。
二人の恋愛観の相違: 酒と女と冒険を愛したけれど、4回も結婚をした几帳面なPAPAとは対照的に女優バーグマンからの熱愛も拒否し、結婚という形を取らなかったCAPAは日本からインドシナへ取材に向かい地雷を踏んで爆死。
有名な「ヘミングウェイのおしり」
訃報を聞いたヘミングウェイの声明文:
彼は良き友であり、偉大な、きわめて勇敢な写真家だった。 彼の運が尽きてしまったことは、すべての人々にとって、なによりキャパ自身にとって不運といっていいだろう。 彼はいつも生気にあふれていた。その彼が亡くなったと思うと1日が長く辛い、受け入れるには長い時間がかかるだろう。
★ 著者の山口淳氏(1960-2013)は遺されたモノから物語を紐解いてゆく
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