お別れ会 ~ 神に恋をした人
3月29日(土曜日):
木彫作家、大沢民子さんのお別れ会場(東京YWCAのカフマンホール)には250名を超える人たちが集った。無教会派(内村鑑三)の敬虔なクリスチャンだった故人の歴史を紐解きながら会は進行。その人柄をエピソード交えながら旧交を温める会にもなっていた。
下町生まれの彼女は谷中をこよなく愛した。せいわ荘というレトロ調のアパートには撤去 されるまで、その後は大名時計博物館隣の木造アパートに工房を兼ねて棲んでいた。そこに集う弟子たちの殆どは木彫を言い訳に美味しい食卓にありつけるのが魅力だったように思う。
いつも美味しいものを手早く作ってもてなすのが流儀。台所といえば小さなガスコンロが2つ程度、冷蔵庫以外の電化製品は見たことがない。泡立て器の代わりに箸を5本で美味しいデザートを創ってしまう。 モチロン、携帯やパソコン、テレビもなかった。 人数が多ければ、段ボールにテーブルクロスをかけて人数分の席を提供した。
とにかく哲学を持った人だったので、いつも質素で贅沢。木彫道具の散らばった部屋にはいつもイキイキと生花が飾られていた。バブルが弾けようが、嵐が来ようがいつも揺るぎなくドンと座っていた。木彫の師匠なのに先生と言われることを極力嫌がった。
晩年の夏の10年間はイタリアで過ごし、エトルリアやローマ遺跡とともに、ワインを堪能していたようである。 いつも持ち歩く大きな袋の中には彫刻刀とともにヨレヨレの聖書が入っていた。神とはどんな存在なのかを聞くと、恋をする感じと答えた。
だからと言って、決して宗教を押し付けることはしなかった。 76歳の骨太の人生を見事に駆け抜けて逝った。 谷中に行けばいつでも会えるような気がする。
はっきり言っておく。一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。 だが、死ねば、多くの実を結ぶ。 (ヨハネ福音書12・24)
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