アラ傘作家を斬る ~ 斉藤美奈子
筑摩書房の小冊子「ちくま」1月号の世の中ラボ編「昭和一桁生まれのベストセラー作家に学ぶ」は日頃の思いを代弁してくれて痛快。
いつもながら斉藤美奈子女史の毒舌には小気味よさが漂う。
斬られたアラウンドエイテイー(アラ傘寿)の4人の売れっ子作家達とは
● 石原慎太郎翁: 都知事を電撃辞任し、年下の橋下をたぶらかして新党立ち上げ、国政に打って出るだけでは飽き足らず、首相の座を狙おうというのである。ここまで来ると老害だが、体力といい気力と言い、口の減らなさ、懲りなさといい、枯れとは無縁のこの人の「若さ」は半端じゃない。
● 愛と性の伝道師 渡辺淳一: 「老い方レッスン」
元気の源は何度も同じ話をする「反復力」であろう。この話は前にも・・・などと進言してはいけない。これが老いの芸なのだ。
● 説教界の女王 曽野綾子: 「人間の基本」
論の進め方に独特のパターンがある。「あなたが知らない世界にわたくしが行った時」という話がお好き。貧困地帯の見聞録が出てきた後の展開は「こんな悲惨な土地にくらべたら、いまの日本は豊かだ、平和だ、貧困はない。どんな危機にも自己責任で備えるべきで、支援に頼るのは日本人の甘えだ、堕落だ、権利を教えて義務を教えてこなかった戦後教育の欠陥だ、云々」世界中の弱者をダシに、足元の弱者を切る。
● 深夜ラジオの貴公子 五木寛之: 「選ぶ力」
「下山の思想」で山を下りたのかと思ったらで再び上へ。 タイムリーな話題を適度にまぶしつつ、ときたま「どうだ」というフレーズで決めてみせるのが流儀。迷う話が延々に続き、話題はいつか健康方面にシフトして、方向性を見失う。この本の特徴は「脱線力」だろう。健康と仏教の話題だが、すべては出たとこ勝負。選ぶことも選ばれることも「思うままにはならない」世の中なのだといわれても、誤魔化された感じ。
そして続く
さあ、以上の三冊から何を学ぶか。題材や論理に新鮮さはなく、内容的に学ぶところはあまりないのだ。にもかかわらず、これらが書かれ、しかも確実に売れるのは、ひとえに著者のブランド力にかかっている。中身はもちろん、タイトルさえ、極端にいえばなんでもいいのだ。慎太郎がなぜだか票を集めるのと構造としてはおなじである。
やはり、戦前戦後現代を知っている自負がそうさせるのだろうか? 読者側もポリシーがないと、ブランド力に左右され、大先生作家モノを購入し、感動(?)し続けることに・・・・・
さて、おばさんは名ブランドの「徒然草」でも読もうかなア。
« また新しい年に | トップページ | 東京に雪がふるとき »
「読書の時間」カテゴリの記事
- 『ミンゲル島』 ~ パムックの空想の島(2023.05.12)
- 『わたしの心のレンズ』 ~ 大石芳野さんの現場(2022.11.30)
- 神谷美恵子の本 (2022.09.05)
- 『天皇はいかに受け継がれたか』 (2022.07.19)
- 『ボッコちゃん』 ~ 星新一の世界(2022.07.12)
正に、ドンピシャ!スカッとしますね。
投稿: elmaおばさん | 2013年1月13日 (日) 22時20分
毒舌って言うより、ドンピシャですね。
同じ事を思ってる人がいるんだ~って思いましたです。
投稿: パンダ姐 | 2013年1月11日 (金) 00時53分